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旭川家庭裁判所 昭和39年(家)613号 審判

申立人 内田一郎(仮名)

事件本人 山本雪子(仮名) 外五名

主文

北海道上川郡東川町役場備付の

本籍北海道上川郡東川町東○号北○番地筆頭者内田一郎の戸籍中、

一、同籍者俊男の事項欄に「昭和三八年五月一〇日父母婚姻届出」と記載し、母の氏名欄中氏を消除し、父母との続柄欄に「男」とあるを「長男」と訂正すること。

二、同籍者明男の事項欄に「昭和三八年五月一〇日父母婚姻届出」と記載し、母の氏名欄中氏を消除し、父母との続柄欄に「男」とあるを「二男」と訂正すること。

三、除籍者京子の事項欄に「昭和三八年五月一〇日父母婚姻届出」と記載し、母の氏名欄中氏を消除し、父母との続柄欄に「女」とあるを「二女」と訂正すること。

四、同籍者伸子の事項欄に「昭和三八年五月一〇日父母婚姻届出」と記載し、母の氏名欄中氏を消除し、父母との続柄欄に「女」とあるを「三女」と訂正すること。

五、同籍者初男の事項欄に「昭和三八年五月一〇日父母婚姻届出」と記載し、母の氏名欄中氏を消除し、父母との続柄欄に「男」とあるを「三男」と訂正すること。

本籍北海道上川郡東川町西○○号北○○番地筆頭者田中治郎の戸籍中

同籍者京子の母の氏名欄中氏を消除し、父母との続柄欄に「女」とあるを「二女」と訂正すること。

を許可する。

申立人のその余の申立を却下する。

理由

第一本件申立の要旨

一、申立の趣旨

北海道上川郡東川町役場備付の

本籍北海道上川郡東川町東○号北○番地筆頭者内田一郎の戸籍中、

一、男俊男、男明男、女伸子、男初男の各戸籍を消除する。

二、除籍者女雪子、男俊男、男明男、女京子、女伸子、男初男等の各戸籍事項につき必要及び関連事項を北海道上川郡美瑛町役場備付の本籍北海道上川郡美瑛町字俵真布○○線○○○番地筆頭者森和男戸籍中にそれぞれ記載及び移記する。

ことを許可する旨の審判を求める。

二、申立の実情

事件本人等は申立人と申立外森和男の妻であつたヨシとの間に出生した子であるが、各出生の届出に際しては本来ならば母が婚姻中に出生した子であるから上記森和男同ヨシ間の嫡出子として届出をなすべきであつたのに、当時は旧法施行中で庶子出生の届出が許されていたために事件本人等の場合もこれにより得ると誤信した申立人がいずれも届出人となつて自らの庶子として出生の届出をなし、これがそのまま受理されて現戸籍のような戸籍の記載がなされるに至つた。その後上記森ヨシは森和男と離婚して昭和三八年五月一〇日申立人と婚姻し、その結果事件本人等は申立人と上記ヨシとの間の嫡出子となつた。ところが今度関係戸籍吏より上記のように本来入籍すべきでない戸籍に子が入籍した手続の違背は当然法の許容する戸籍記載から搬出して正しい戸籍に訂正するのが真実に即するとの見解に基き、戸籍訂正申請の催告を受けたので、申立人も同様の考えから本件申立に及んだ。

第二当裁判所の判断

本件申立書添附の申立人内田一郎の戸籍謄本二通、申立外森和男の戸籍謄本、事件本人山本雪子の戸籍謄本、事件本人田中京子の戸籍謄本各一通並びに当裁判所調査官の調査の結果(申立人内田一郎、申立外内田ヨシ、同森和男につきそれぞれ面接調査した結果)によると、事実関係は次のとおりであると認められる。すなわち、申立外ヨシは、昭和二年に申立外森和男と事実上結婚し昭和三年八月二八日婚姻の届出をしたが、昭和四年八月頃同人と事実上離婚し(その後同人とは会つたこともない)昭和六年四月頃申立人内田一郎と結婚式を挙げ、後同人と同棲するようになつた。そして申立人内田一郎と申立外のヨシとの間には昭和七年三月一二日事件本人雪子(女)が、昭和九年三月二一日事件本人俊男(男)が、昭和一三年七月二日事件本人明男(男)が、昭和一七年一月一〇日事件本人京子(女)が、昭和一八年五月二七日事件本人伸子(女)が、昭和二〇年一一月三〇日事件本人初男(男)が出生した。ところがこれら事件本人の出生の届出に際しては、いずれも申立人内田一郎が届出人となつて、事件本人雪子、同俊男、同明男については昭和一七年三月一二日、事件本人京子については同年一月一三日、事件本人伸子については昭和一八年六月四日、事件本人初男については昭和二〇年一二月一〇日自らの庶子としての出生の届出をなし、これがいずれも受理されて事件本人らは申立人内田一郎の戸籍に入籍した。その後申立外ヨシは昭和三五年八月三一日申立外森和男と協議離婚の届出をなし、昭和三八年五月一〇日申立人内田一郎と婚姻の届出をなした。なお事件本人雪子は、その前である昭和二六年八月一三日申立外山本進と婚姻届出をなし同人の戸籍に入籍して申立人内田一郎の戸籍からは除籍され、事件本人京子は、その後である昭和三九年七月一一日申立外田中治郎と婚姻届出をなし同人の戸籍に入籍して申立人内田一郎の戸籍からは除籍された。事実関係は以上のとおりであると認められる。

以上認定の事実関係をもとにして考えてみるのに、事件本人らの各懐胎出生当時母である申立外ヨシは戸籍上は申立外森和男と婚姻中だつたのであるから、事件本人等については上記申立外人のいずれかからその間の嫡出子としての出生届出をなすべきだつたのであり、戸籍吏としては申立人内田一郎がなした自らの庶子としての出生の届出は受理すべきではなかつたのであるが、誤つたにもせよ一旦受理されて本件のように戸籍訂正許可の段階でその届出の有効無効ひいてはその届出に基いて記載された戸籍記載の正否が問題となる場合には、戸籍吏が形式的審査権しか有しないのにひきかえ家庭裁判所は実質的審査権をも有するのであるから別個の観点からこれを考察しなければならないところ、事件本人らはいずれも旧戸籍法(大正三年法律第二六号)施行当時に出生したものであるが、旧戸籍法においては事実上の父からする出生の届出も庶子出生の届出という形で許されていたのであり、それは出生子が非嫡出子である場合に限られていたわけであるけれども、認知の訴がいわゆる嫡出推定を受けない嫡出子についても許されることから考えると、家庭裁判所がすでに受理された届出の有効無効を判断するにあつてはこれを出生子がいわゆる嫡出推定を受けない嫡出子である場合にまで拡げて解釈してよいと考えられ、上記事実関係からすれば事件本人らは申立外森和男と申立外のヨシとの間の嫡出子であるとの推定は受けないものとみるべきであるから、申立人内田一郎のなした上記各庶子出生の届出は届出資格のない者からの届出ということはできないし、かつまたそこに記載された親子関係は上記事実関係からすれば真実に合致するものといわなくてはならないから、申立人内田一郎のなした上記各庶子出生の届出はこれを有効と解するのが相当であり、従つてこれに基いて記載された戸籍記載も事後的な判断としては正しいものといつて妨げないものと解せられる。ただそうすると申立人内田一郎のなした上記各庶子出生の届出は旧戸籍法第八三条前段によりいずれも認知届出の効力を有することになるところ、上記のとおり事件本人らの父母である申立人内田一郎と申立外ヨシとは昭和三八年五月一〇日婚姻したので、その結果事件本人らは両日以降右両名間の嫡出子たる身分を取得しているわけであるから、主文第一項掲記の現戸籍はその点の記載がない点では事実に反するが、この点を事実に合致した記載にあらためるためには、なにも本件申立の趣旨掲記のような戸籍訂正の方法によらなくとも、主文第一項掲記のような戸籍訂正の方法によれば十分であるし、またそれが正しいと考える。先例としては本件と同種の事案について昭和三九年一月三〇日付民事甲第二〇二号民事局長回答があり、本件申立の趣旨もこの先例によつたものと考えられるが、この先例は本件に即していえば上記各庶子出生の届出を原則として無効と解する前提に立つものと考えられるので、当裁判所としてはこれにしたがうことはできない。なお事件本人山本雪子については、上記事実関係から明らかなように嫡出子たる身分を取得する以前にすでに筆頭者申立人内田一郎の戸籍から除籍されていたのであるから、戸籍の記載は除籍当時の正しい実体を示しているわけで、戸籍訂正の必要はないことになる。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 露木靖郎)

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